競争の激しい「サービスとしてのソフトウェア(SaaS)」の世界では、新規顧客を獲得するだけではなく、顧客を維持することが重要になります。というのも、顧客を維持することは、新規顧客を獲得することよりもはるかに収益性が高いからです。実際に、Bain & Companyの調査によると、リテンションが5%増加すると、最大95%の利益増加につながる可能性があるという結果が出ています。しかし、多くのプロダクトリーダーは顧客の獲得に重点を置きすぎて、既存の顧客を維持することには十分注意を払っていません。
リテンションは、プロダクトがユーザーをどれだけ引き付けてリピーターとして戻って来てもらえるか、たまたまやって来た訪問者をより忠実な顧客や支持者へと変換できるかを示すものです。これは単なるダッシュボード上の数字ではなく、プロダクトの成功、顧客満足度、成長の可能性を示す強力な指標になります。
あらゆるプロダクトマネージャーがリテンションにこだわるべき理由について、Pendoのプロダクトアナリティクス担当シニアディレクターであるRyan Salomonに話を聞きました。この2部構成シリーズの第1部では、リテンションがSaaS企業を成長させる秘訣となる理由に加え、リテンションが他の主要な指標とどのように交差するのか、そしてPendo独自のユーザーリテンション調査に関する驚きのインサイトをご紹介します。
This is part 1 of our interview with Ryan Salomon. Catch up on part 2 of his insights here.
Q:プロダクトリーダーがユーザーリテンションを重視すべきなのはなぜですか?
A:リテンションは、プロダクト市場への適合性と長期的な顧客満足度を示す最も明確な指標です。WazeのUri Levine氏のような創業者が10億ドル規模のアプリを生み出すことができたのも、このリテンションのおかげです。リテンションは、プロダクトが最初の導入段階を超えてユーザーの共感をどれだけ得るかを教えてくれます。リテンションなしにユーザー獲得ばかりに焦点を当てているようでは、まるで水漏れしているバケツにひたすら水を満たし続けているようなものです。
リテンション率が高くなっているということで、チームがプロダクトのどんな問題もしっかり解決していること、またはユーザーが関心を維持し戻ってきてくれるように顧客ニーズを満たしていることを確認できます。一方、リテンション率が低い場合は、オンボーディング体験、プロダクトの使いやすさ、サービスの知覚価値などで、何らかの不安点があることを示唆しています。
Q:「リテンション」指標は、どのチームが担当し責任を負うべきですか?
A:ユーザーリテンションへの取り組みというのはチームスポーツのようなものです。CEOからカスタマーサクセスチームに至るまで、社をあげてリテンションに関心を持つべきです。プロダクトチームだけの責任ではなく、会社全体が責任をもって取り組むべき指標と言えるでしょう。
- プロダクトマネージャーにとっては、リテンションは機能やアップデートがどれだけユーザーに受け入れられているかを示す直接的な指標です。
- マーケティング担当者にとっては、リテンションは獲得したユーザーの質と、そのユーザーが理想的な顧客ペルソナと一致しているかどうかを示す尺度になります。
- カスタマーサクセスとサポートの面では、通常、リテンションデータが主な焦点となります。このデータにより、ユーザーが行き詰まっている、または何らかの摩擦に遭遇している領域が浮き彫りになり、リテンション率が低い場合には全体的なチャーン(解約)リスクが把握できます。
「リテンションレポートはカスタマーサクセスチームにとって非常に貴重なものです。これは、お客様が当社のプロダクトをどのように利用しているかを時系列で明らかにするだけでなく、当社の顧客行動の影響を測定するのにも役立ちます。これらのパターンを追跡することで、新規顧客エンゲージメント戦略や顧客教育戦略が実際に定着化しているのか、成長を促進しているのかどうかを確認できます。また、Pendoを使用すると、書籍、ペルソナ、業種などのメタデータによって顧客をさらにセグメント化できるため、使用状況をさらに深く分析し、さまざまな顧客セグメントに合わせてアプローチを調整できます。」
— Pendoのカスタマーサクセスディレクター、Stacy Osorio
Pendoのヒント:リテンションレポートは、チーム全体にとっての中心的な場所であるPendoのダッシュボード上に配置しておきましょう。
Q:ユーザーリテンション率は、顧客生涯価値、チャーン、定着率などの他の主要業績評価指標とどのように相関していますか?
A:リテンションは、他の主要な指標を構築する基盤となります。リテンションを高めると、顧客生涯価値(LTV)がすぐに高まります。つまり、長く定着する顧客ほど、顧客生涯にわたって社のデジタルプロダクトに費やす金額が必然的に多くなります。
また、顧客生涯価値(LTV)が上昇すると、健全なLTV/CAC(顧客獲得コスト)比率を維持しながら、新規顧客の獲得にさらに投資できるようになります。実際には、SaaS企業がリテンションを10%向上させ、LTVを10,000ドルから11,000ドルに引き上げると、顧客1人あたりの獲得コストを2,000ドルから2,200ドルに増やす余裕ができ、企業の収益性を損なうことなく、より積極的な成長戦略が可能になります。これがリテンションに成功した企業が、まさに破竹の勢いで成長を続けることになる理由です。
チャーン(解約率)に関しては、リテンションとチャーンは反比例関係にあります。つまり、リテンションが低いとチャーンは高くなります。これもまた、最初の導入段階が必ずしも長期的な成功につながるわけではないこと、そして、リテンションが持続的な価値を測る唯一の真の尺度であることを覚えておくべき理由です。
Q:リテンションの追跡と改善を行う際にプロダクトマネージャーが犯しがちなミスとは?
A:私がよく見かけるミスの1つは、リテンションを定期的に監視するだけの静的な数値として扱うことです。Pendoが本格的にリテンションに重点を置き始める前には、ダッシュボード上でたまに更新される一部分というだけの存在でした。ユーザーリテンションレポートというのは、きちんと視覚化されず、常に目の前に表示されていない状態だと、どうしても無視されがちです。
もう1つの間違いは、リテンションデータを誤ってセグメント化することです。ユーザータイプ、行動、使用している機能など、さまざまなコホートにわたりリテンションを調べて、これらの数字の背後にあるニュアンスを明らかにする必要があります。
最後になりますが、プロジェクトマネージャーは、解約したユーザーから学ぶ機会を活用しないことがよくあります。エンゲージメントの高い顧客に焦点を当てるのは自然なことですが、解約した顧客に連絡することで、ポジショニング、ロードマップ、顧客教育戦略に役立つ貴重なインサイトを得ることができます。
Pendoのヒント:Pendo内のリテンションレポートから直接、定着しなかったユーザーのリストを取得できます。
Q:リテンションに重点を置くことは、長期的な成長と顧客ロイヤルティにどのように役立ちますか?
A:リテンションを優先する企業というのは、本質的にはカスタマーサクセス(顧客の成功)を優先している企業です。ユーザーのエンゲージメントと満足度を長期的に高く維持するものに焦点を当てることで、自然と顧客体験が向上し、解約が減り、ロイヤルティが育成されます。
このロイヤルティは、成長への最も強力な原動力の1つであるアドボカシーへと変わります。実際、口コミは世界中で年間6兆ドルもの支出を生み出し、全売上の13%に貢献しています。Airbnbの共同創設者兼CEOであるBrian Chesky氏が言ったように、なんとなく気に入ってくれる顧客が100万人いるよりも、熱烈に愛してくれる100人の顧客がいる方が良いのです。ロイヤルティの高い顧客は、他の人に紹介したり、肯定的なレビューを残したり、時間の経過とともに自分たちの利用を拡大したりする可能性が高いからです。つまり、複利効果をもたらしてくれます。
社の全員がリテンションに取り組むような企業文化を構築し始め、プロダクトを単なる「良いもの」から「不可欠なもの」へと進化させましょう。業界や地域の他のプロダクトと比較して、ユーザーリテンションのベンチマーク評価を行いましょう。