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ラクスル、新規SaaS事業「ジョーシス」立ち上げのバイブル

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■松本恭攝社長が絶賛する「コホート分析の解像度と再現性」 昨年、ラクスルCEO松本氏がスタートさせたのが、ITデバイス & SaaS統合管理サービスを提供するジョーシスである。今回はジョーシスのCPOを務める横手絢一氏とともに、同社にとっての「バイブル」となった一冊の本について話を聞いた。

 「ジョーシス事業をリリースして間もない頃、知り合いの投資家がPodcastで『一冊の本』を紹介していたんです。ちょうどプロダクトに関する書籍を集中して読んでいた時期だったので、試しに読んでみたら驚きました。これは、これからジョーシスの根幹をなす思想になる。すぐにそう感じました」

 ラクスルおよびジョーシスの社長である松本恭攝氏が絶賛する本は、アメリカの起業家トッド・オルソン氏が書いた『プロダクト・レッド・オーガニゼーション 〜顧客と組織と成長をつなぐプロダクト主導型の構築〜(以下、『PLO』)』である。

 『PLO』を直訳すれば「プロダクト主導型組織」。継続的に顧客との接点を持ち続けるSaaSが当たり前となった現在、日々変化するユーザーニーズに合わせてプロダクト自体も常に進化し続けなければならない。

 本書は、それを実現するための組織のあり方を次のように説く。営業、マーケティング、サポート……、あらゆる企業の営みの“ど真ん中”にプロダクトを据え、ユーザーデータを軸にすべてを意思決定しなければならない、と。

 単なる組織論にとどまらない『PLO』は、著者であるオルソン氏のデータに対するこだわりが強く感じられる。顧客に正しい価値を提供できているか判断する上で大きな要となる、ユーザーのアクションデータの測定・分析方法なども惜しげもなく紹介されているのだ。松本氏はこう言う。

 「プロダクトにおけるユーザーのアクションをすべてコホートで分析していく。『PLO』に貫かれているこの考え方はとても素晴らしいと思いました。コホートとは、共通の特徴を持ったユーザーグループのことです。例えば、『初めてプロダクトを使用した』というコホートがあるとします。そのうちのどれだけのユーザーがどの機能を使って、どの機能を使わなかったのかを分析することで、初回ユーザーに対するインサイトが見えてくる。この本は、こういったコホート分析の解像度が圧倒的で、しかも科学的だから再現性も高い。ほかの類書とは比べ物になりません。実は、これをきっかけに、ジョーシスのすべての経営指標にもコホート分析を取り入れることにしたんです。そういった意味では、ジョーシスという事業そのものにも大きな影響を与えてくれました」

■グローバルな組織ではデータが共通言語になる
 社長の松本氏だけでなく、いまやジョーシスのメンバーにも『PLO』の考え方は浸透している。松本氏の右腕としてジョーシスでCPOを務める横手絢一氏も、その内容にはうなずくばかりだったという。

 「プロダクトの売れ行きが芳しくないとき、セールスの人間は『開発チームが売れる商品を作らないからだ』と言い、開発チームの人間は『セールスが売ってこないからだ』と言います。しかし、『PLO』にもあるように、ユーザーデータを詳細に測定・分析すればこういった不毛な言い争いは避けることができると思うんです。感情論に振り回されるのではなく、ユーザーデータから抽出された確固とした数字を軸にすることで、組織を同じ方向に導くことができる。データは嘘をつきません」

 松本氏と『PLO』の出会いは、結果としてジョーシスにもうひとつの変化をもたらした。「ソフトウェアを使いやすくするソフトウェア」として海外テック企業からも評判の高いPendoを導入することを決めたのである。何を隠そう、このソフトウェアを開発した人物こそが『PLO』の著者であるオルソン氏なのだ。オルソン氏は米PendoのCEOでもある。(日本支社Pendo.io Japan株式会社は2020年11月に設立)

 これまで松本氏や横手氏の口から語られてきた、オルソン氏の考えに対する賛辞。その彼が理想とするデータの測定・分析が可能となるのが、まさにPendoなのだ。

 横手氏は「ひょっとしたらとある週で、僕が日本で一番Pendoを使った記録が残っているかもしれません」と笑う。「改めてPendoを使ってみると、こんなに測定できていなかったデータがあったのかと思い知らされました。ある条件を満たすユーザーがどこでつまずいて機能を使うのをやめてしまったかなど、ジョーシスで大切にしているコホート分析もすぐに行うことができます。それまで手に取れていなかったものが、手に取るようにわかるようになった感覚がすごくありますね」
 ジョーシスは、社員のITデバイスや利用中のSaaSアカウントを一括管理できるクラウドサービスだ。社員が利用しているデバイス情報の確認や、新入社員のためのデバイスのキッティング、それにSaaSアカウントの新規発行や解除も簡単に行うことができる。2021年9月のサービス開始直後から予想をはるかに上回る反響が続いているというが、最初から松本氏の頭の中には明確な展望があった。

 「もともと、ジョーシスはコロナ禍をきっかけに生まれた事業です。我々も手がける事業の多くの営業がストップしてしまった中で、社内のコスト見直しを進めていったのですが、どうしてもいまの仕組みではコストを抑えられない部門があった。それが、コーポレートIT部門でした。理由を調べてみると、生産性が非常に低い割に、多くの人手を必要とするアナログな業務管理が大量に存在していたのです。この単純作業の多くを自動化することで、コーポレートITの重要業務であるはずのDX戦略の推進に集中してもらえるのではないか。そう考えて、ジョーシスのサービスをスタートさせました。ただ、日本と海外を比べてみたとき、使われているデバイスやSaaSに大差はありません。つまり、この分野はローカル性があまり強くない。最初からグローバル展開を前提にサービスを立ち上げています」

 そのためジョーシスの開発チームは最初からインドを拠点とし、全体に占める日本人メンバーの数ははるかに少ない。社内の公用語も英語だ。そして、ここでもキーワードとなってくるのが、やはり“データ”なのだという。「日本人だけのチームではないので、コンテクストの共有がなかなか難しい。その点、データというのはどの国の誰が見ても客観性が高く、極めてローコンテクストです。マルチナショナルな組織でグローバル事業を成功させるためには、プロダクトに関する明確なデータの活用が必要不可欠です」(松本氏)

 世界を見据えたジョーシスのような組織では、Pendoの役割もさらに重要度を増していく。横手氏はこう語る。「我々は、データドリブンなコミュニケーションを重ねることで、お客様が必要としている価値を提供し続けられる組織にならなければいけません。その観点で言えばPendoで分析したデータは、いずれ事業や組織が国籍を越えるための共通言語になるんじゃないかと思っています。いまはPendoの利用によって気づきや学びを得ている状態です。あとはこれを実際のアクションにまで落とし込み、事業として結果を出していく。これからが正念場です」

 また、ボーダーレスな事業を手掛けるからこそ、いまの日本の企業が抱えてくる「課題」も見えてくる。

 「日本の企業の問題は社内でシステムを内製化しないことです。欧米の会社は、CIOがいて、その配下でテクノロジーチームがシステムを自前で作り、情報の蓄積もしている。それができていない環境ではDXが進みません」(松本氏)

 こうした問題を解決に導くのが、まさにジョーシスが提供するITサービスである。そして、そのジョーシスを運営する上で欠かせなくなっているが、Pendoなのだ。

 最後に松本氏は、「Pendoはデータの解像度を上げてくれる重要なツールだ」と、大きな期待を寄せた。

 「データといっても単に測定すればいいというものではありません。解像度が低ければ、お客様がプロダクトに価値を感じているかはわかりません。でも、解像度が高ければ、お客様に価値が届いているか否かが正確に把握できるようになります。ジョーシスのようなSaaS事業の成功は、まさにそこにかかっているのです。プロダクトの価値や、チームと事業の拡張。Pendoはこれらを正しく導くものとして、我々の組織においてもきっと中心的な役割を果たしてくれると思っています」