これまでプロダクトリーダーは、リリースした機能の数で自分自身を評価することがよくありました。この種の評価は、戦略全体において一定の役割を果たしますが、プロダクトの成功を測る真の指標にはなりえず、ましてや実用的な指標にはなりえません。プロダクト主導型の企業が、これを変革します。

優れたプロダクトチームは、自分たちが提供するものは、実際に顧客に使われてこそ価値があることを知っています。そのため、ユーザーがプロダクトやその主要な機能に関わっているかどうか、つまりプロダクトが意図した価値を提供しているかどうかをよりよく理解するために、定着率データに目を向けています。しかし、さらに重要なことは、定着化の促進が、測定、介入、反復を必要とする継続的なプロセスであることを認識していることです。

大まかに言えば、定着率の高いプロダクトは、次のような特性を備えています。

  • ユーザーがすぐに価値を見出すことができる
  • 習慣的、定期的な使用を促進する
  • ユーザーが時間をかけてプロダクトを探求することで、容易に拡張できる

プロダクトチームにとって定着化が重要である理由

プロダクトの中で使われていない部分はすべて、顧客がお金を払っているにもかかわらず、そこからの価値を得られていない部分であることを示しています。いつでもソフトウェアプロバイダーを切り替えることがこれまでになく容易になっている現在、このように十分に使われていないことが、ソフトウェアプロダクトに対する低評価や、最終的には解約につながることがよくあります。

一方、プロダクトを定期的に使用する顧客は、ビジネスの収益を維持するだけでなく、ブランドの愛好者や支持者になる傾向があります。

後者の結果を確実にするには、プロダクトチームはリリース時に自分たちの仕事が終わったと考えてはいけません。プロダクトマネージャー(PM)は、自分たちが作ったものを顧客がどのように使っているかを常に把握し、次のような質問を自問自答する必要があります。お客様が一番使っている機能は?時間の経過とともに使用量は増えているか?それとも減っているか?ユーザーは毎日アプリにアクセスしているか(そして、これは良いことなのか)?

「良い」定着化はプロダクトによって異なりますが、定着率を測定し、改善に取り組むことは、プロダクト主導の組織であるための中核となります。結局のところ、最初のログイン以降もユーザーを惹きつけるようなプロダクト体験を提供することが重要なのです。


定着率の測定方法

定着化には、プロダクト全体の定着化と個々の機能の定着化の両方が含まれます。ここでは、それぞれの測定方法を簡単に説明します。

プロダクトの定着化は、月間アクティブユーザー数(MAU)、週間アクティブユーザー数(WAU)、日別アクティブユーザー数(DAU)の合計で経時的に表すことができます。また、一定期間の新規ユーザー登録数に対する相対的な割合で、プロダクトの定着化を測定することも可能です。

いずれにせよ、どのような指標を選択するかは、自社のプロダクトのアクティブユーザーがどのような人たちかによって大きく異なります。たとえば、企業向けプロダクトを扱っている企業の場合、通常そのソフトウェアは週単位で使用されるため、週単位のビューを選択するかもしれません。B2C向けのプロダクトであれば、コンバージョン(購入など)の頻度やアプリ内の滞在時間を見る方が有益でしょう。そして、忘れてならないのは、使用量が多いことが、必ずしも良いというわけではないということです。ユーザーが特定のタスクやワークフローを完了するために必要以上の時間を費やしている可能性があるため、エンゲージメントの増加が摩擦の指標となることもあります。

機能の定着化の測定は、プロダクトの定着化と似ていますが、こちらはプロダクトの中の特定の機能(または複数の機能)に焦点を当てます。機能の定着化を測る一般的な方法として、プロダクト全体におけるクリック数の80%を生み出した機能の割合が挙げられます。また、どの機能がユーザーに受け入れられいるかや、無視されているかを把握することも有効です。前者はユーザーがどこに価値を見出しているかを明らかにし、後者はワークフローで活用されていない重要な機能について、ユーザーを教育する必要があるかどうかを示唆するものです。

また、プロダクトチームは、ユーザーとアカウントの両方のレベルで機能の定着率を検証することも重要です。ユーザーレベルで測定することにより、ターゲットペルソナの行動をより理解できます。一方、アカウントレベル(会社ごと)で測定することにより、特定の機能を必要としなかったかもしれない役割や権限レベルの人たちを切り分けられるようになります。


リリース後の体験の再考

プロダクトや機能のリリースは、以前は終点とみなされていたかもしれませんが、実際にはほんの始まりに過ぎません。せっかく作った新機能は、それだけでは正しく定着しないので、告知と発見のプロセスが重要です。 

プロダクト主導型の企業は、新機能を告知し、ユーザーを教育するためのチャネルとしてプロダクトを使用し、これまでメールや長いドキュメントの中にあったリソースをアプリケーション自体に取り込んでいます。また、プロダクトチームは、アプリ内のリリース告知やウォークスルーをパーソナライズし、これらのメッセージをユーザーのニーズに密接に関連付けることができます。たとえば、ある新機能が特定の役割のユーザーにとって特に価値のあるものである場合、プロダクトチームはアプリ内のコミュニケーションをそのユーザーに特化して行い、その機能と無関係な他のユーザーの気を散らさないようにすることができます。 

アプリ内でリリース時のコミュニケーションを行うことに加え、もうひとつの方法は、新しいプロダクトや機能のリリース後にプロダクトの使用状況を追跡することです。機能のリリースでは、プロダクトアナリティクスを使用して、最初に新機能を使い始めたユーザーの割合と、プロモーションキャンペーンが一段落した後もその機能を使い続けたユーザーの割合を確認することができます。定着率が低い場合は、リマインダーとしてアプリ内ガイドを追加作成したり、ユーザーが必要なときにアプリ内チュートリアルにアクセスできるようにプロダクトの領域を案内したりします。

プロダクト主導の定着化戦略を成功させるための要素

定着率の向上は、プロダクトチームができるだけ多くの機能の使用を促進することを意味するものではありません。その代わりに、ユーザーに価値をもたらし、好感度に貢献し、顧客の成果につながるような、適切な機能の採用を促進することが重要です。そのためには、定量的と定性的なインプットの組み合わせと、これらのデータすべてに対してアクションを起こす能力が必要です。

ここでは、すべての定着化戦略に含まれるべき4つの要素を紹介します。

プロダクトアナリティクスデータ

定着化の促進のためには、それを測定できる必要があります。ユーザーの集計データ、機能レベルのデータ、ユーザーのメタデータ(役割、業界、企業規模など)を追跡できれば、チームがこれらのインサイトを実行に移せるように行動を分析できるようになります。新しいプロダクトや機能の定着化を追跡するだけでなく、ユーザーがどのようにプロダクトと関わっているかの基本を理解し、これを長期にわたって測定し続けることが大切です。

ユーザージャーニーの把握

プロダクトの使用状況データを収集しながら、典型的なユーザージャーニーと理想的なユーザージャーニーがどのようなものであるか、仮説を立て始めます。これにより、定着率データの意味を理解し、具体的な質問を念頭に置いてアプローチできるようになります。以下に、検討すべきいくつかの項目を挙げます。

  • 顧客価値を提供するために、どの機能が最も重要ですか?
  • ユーザーが行うべき主なワークフローやアクションは何ですか?
  • そのワークフローは、お客様のライフサイクルを通じて、どのように進化していくでしょうか?
  • 最も使用されている機能は何ですか?それらは期待に沿ったものですか?
  • 使われている機能で上位にないもの、意外と使われている機能はどれですか?

そこから、予測と実際のユーザー行動の比較を開始します。期待と現実とが異なる場合、ユーザーパス分析によって、アプリケーション内の特定の機能やページへの行き来を明らかにし、その理由を調査します。また、主要な機能を使ったことのあるユーザーと使っていないユーザーのパスを比較するなど、ユーザー層が異なるセグメントのユーザージャーニーを検証することも可能です。

アプリ内コミュニケーション

ユーザーがプロダクトにどのように関わっているかをしっかり把握したら、このデータを使ってプロダクト体験をさらに最適化することが重要です。主要な機能で定着率が低いものはありませんか?特定のタスクでユーザーが行き詰まっていませんか?特定のペルソナに関連する拡張機能はリリースしましたか? 

真のプロダクト主導型であるプロダクトチームは、ユーザーが積極的にプロダクトに関わっている間、アプリ内メッセージを使ってポジティブなワークフローや行動を促進する必要があります。また、アプリ内ガイドが多すぎてユーザーを混乱させないために、アプリ内キャンペーンの優先順位付けのフレームワークをまとめておくことも有効です。

ユーザーのセンチメントとアンケートのプログラム

顧客がどのようにプロダクトを操作しているかを知ることと、顧客がプロダクトに何を求め、何を必要としているかを理解することは別のことです。プロダクトチームは、定着化の要因を真に理解するために、定量的な使用状況データとユーザーアンケートによる定性的データを組み合わせる必要があります。この場合も、自社のプロダクトを使用して、特定のユーザーセグメントをターゲットにしたアプリ内アンケートを配信しましょう。また、指標重視型とプロジェクト重視型の2種類のアンケートプログラムを活用することも検討してください。指標重視型のアンケートは、ユーザー体験やセンチメントの経時変化を測定することを目的とした常時実施型のキャンペーンです。プロジェクト重視型のアンケートは、機能のリリースや新機能の調査など、個別の活動をサポートするための具体的なフィードバックを収集するために設計されます。