オンボーディングとは、新規ユーザーがプロダクトに習熟し、プロダクトの価値を見出すようになるまでのプロセスです。ユーザーのオンボーディングとその成功の測定に必要な手順は、企業ごとに異なります。しかし、いかなるオンボーディングプログラムの目標も、ユーザーがそのプロダクトを意図した目的のために使い始め、日常生活の一部となるように十分に快適に使えるようにすることであるべきです。

このオンボーディングという初期段階は、プロダクト体験全体に関わるものですが、ユーザージャーニーの中ではかなり短い一方で、その後に大きな影響のある段階だと言えます。なぜなら、この段階でユーザーのプロダクトに対する第一印象が決まるからです。そして、その体験が快適なものでないと、顧客満足度やプロダクトの熟練度、ひいてはビジネス全体の成果に長期的な影響を及ぼしかねません。

これまで、新規ユーザーのオンボーディングは、時間とリソースを要する作業でした。通常では、プロダクトからイネーブルメント、マーケティングまでの多くのチームが関わっています。そして、メールやPDF、ウェビナー形式のトレーニングセッションなどの「従来型」のチャネルを通じて提供されることも珍しくありませんでした。 

しかし、人間の介入と外部チャネルに大きく依存しているこれらの取り組みは規模の拡大がうまく図れません。特に、すでに多数の顧客関係を管理し、複数の責任をこなしているカスタマーサクセスマネージャー(CSM)の負担となる場合は、なおさらです。そして現実には、長文の「ようこそ」メールやログインの1週間後に設けられているトレーニングセッションの実施だけでは、学習を成功させ、長期的な定着化を促進することはできません。 

その解決策が、プロダクト主導のオンボーディングです。 


プロダクト主導のオンボーディングとは?

プロダクト主導のオンボーディングアプリ内オンボーディングとも呼ばれます)は、プロダクト自体を導入のための有効なチャネルとして活用することで、新規ユーザーががプロダクトに習熟するのを支援するプロセスです。プロダクト主導のオンボーディングでは、ユーザーはプロダクトやアプリ自体の中でトレーニングやウォークスルーを利用できます。この方法により、企業はユーザーがプロダクトを使用しナビゲートする際に状況に応じた情報を提供することで、ユーザーのTime to Value(価値実現までの時間)を短縮することができます。また、カスタマーサクセス(CS)チームによる人間主導のオンボーディングを設ける際に必要となる多くのラグタイム(待機時間)を短縮することができます。

ここで重要なのは、プロダクト主導のオンボーディングとは、人間が介入しないオンボーディングではないということです。

プロダクト主導のオンボーディングは、顧客(ユーザー)にとって多くの利点があります。

  • プロダクト主導のオンボーディングににより、 ユーザー体験がパーソナライズされたものになります。 つまり、ユーザー属性に合わせて内容やフローをカスタマイズできるので(例:ユースケース、ペルソナグループ、役職、権限などに基づいたオンボーディング)、ユーザーは最も関連性の高い情報のみを得られます
  • 没入型の体験となるので、ユーザーは集中して学習し、複数の手段でトレーニングを受ける際に必要となるコンテキストの切り替えに振り回されることもありません
  • ユーザーは自身でオンボーディング体験を進めることができ、それと同時に、必要なときに人的サポートを受けることもできます
  • 提供可能のフォーマットはさまざまな学習スタイルに合わせることができます(例:動画、ステップバイステップのウォークスルー、アプリ内リソースセンター内のオンデマンドリソースなど)

ここで重要なのは、プロダクト主導のオンボーディングとは、人間が介入しないオンボーディングではないということです。実際、多くの組織では、人間主導の戦略とプロダクト主導の戦略の両方を活用して、独自のハイブリッドアプローチを確立しています。プロダクト主導の組織やCSチームは、プロダクトを最も効果的なオンボーディング体験を実現する手段と捉え、顧客に対して即座にコンテキストに応じた価値を提供できるようにします。


プロダクト主導のオンボーディングは、カスタマーサクセスチームにどのようメリットをもたらすか?

SaaS(サービスとしてのソフトウェア)アプリケーションの普及により、顧客がプロバイダーを変更するコストは劇的に減少する一方で、顧客を維持したい企業にとっては大きな負担となっています。顧客はプロダクトの価値をすぐに理解できなければ解約する可能性がはるかに高くなるため、顧客がソフトウェアとのかかわりを持つできるだけ早い段階で、その利点を理解できるようにすることが重要です。

優れたオンボーディング体験は、顧客の契約更新の可能性を高めるだけでなく、CSチームにも別の形でメリットをもたらします。

  • オンボーディングフローをカスタマイズしてさまざまなユーザ-セグメントに合わせられるため、パーソナライズされた(つまり、より効果的で定着性のある)イネーブルメントを大規模に提供することができます
  • CSM(カスタマーサクセスマネージャー)が時間や労力から解放されます。基本的なアカウント設定や機能のチュートリアルなど、従来人間が行っていた簡単な作業がプロダクト内に移管されるからです
  • ユーザーをすぐにプロダクトに誘導できるので、CSMは販売サイクルから生まれた弾みを活用できます
  • プロダクトの価値を実感してもらうことで初日から顧客やユーザーとの信頼関係が築けるため、企業の誠実性やサービスレベルに対する全体的な印象が向上します

優れたアプリ内オンボーディングを構築するためのベストプラクティス

オンボーディング体験は、アプリの複雑さに応じて、組織ごと、プロダクトごとに大きく異なります。非常に技術的なプロダクトの場合は、複数ステップの段階的なオンボーディングフローを作成する必要があります。一方、より基本的な機能や使い慣れた機能を持つアプリの場合は、簡単なプロダクトツアーや機能のチュートリアルで十分な場合もあります。

自社のプロダクトの幅や深さに関係なく、CSMは企業がプロダクト主導のオンボーディング戦略の策定する際に、支援する立場にあります。お客様のことを一番知っているのはCSMです。そして、このインサイトとプロダクトの使用状況データを組み合わせることで、適切なユーザーに実際に共感を生むオンボーディングプログラムの情報を得て構築することができます。 

ここでは、始めるにあたって留意すべきポイントをいくつか紹介します。

自社の目標を知る

お客様について知っていることを考えます。お客様は技術的に精通していますか?お客様は何を目指していますか?お客様にすぐに価値をわかってもらうためには、まずプロダクトのどの領域に慣れてもらうべきですか? 

お客様に関する深い知識は、お客様の成功を測るためのKPIに反映され、独自のオンボーディングプログラムの目標を形成するのに役立ち、オンボーディングフローのペースや形式に影響を与えます。また、お客様が達成しようしている成果に基づいて、プロダクトのどの機能を最初に強調すべきかを判断するのにも役立ちます(詳細は次で説明します)。設定するオンボーディングの目標は、プロダクトの複雑さ、お客様のユースケース、さらにはお客様が契約上受けることのできる専門的なサービスや付帯サービスなど、さまざまな要因によって定まります。

最も重要な機能にフォーカスする

新しいアプリを手に入れ、さあこれからというときに学ぶべきことが多すぎて圧倒されるほど嫌なことはありません。最初にプロダクトのすべての優れた機能を顧客に紹介したい気持ちはもっともですが、効果的なオンボーディングとは実は、新しいユーザーにとって重要なタスクをこなすために必要な、最も関係する機能のみに焦点を当てているものです。CSMとして、それぞれの顧客のユースケースや課題に関連する機能は何かを顧客と共に特定し、そうした機能にユーザーがまず慣れるようにサポートすることが大切です。

プロダクトアナリティクスでは、お客様がプロダクトで成功するために必要なワークフローだけでなく、他の既存ユーザーがどの機能を頻繁に活用し、最も高い価値を得ているかを理解することもできます。アナリティクスツールで可能であれば、この使用状況を個々のユーザーとアカウント単位の両方で調査してください。これにより、過去の成功事例を基に、特定のユーザーや企業のタイプに合わせたオンボーディングプログラムをより適切に調整することができます。

目標を設定し、最初にフォーカスすべき機能を正しく選択するためのヒントについては、詳細なプレイブック「オンボーディングで強調すべき機能の選び方」をご覧ください。

適切な形式を選択する

プロダクトのどの領域をお客様にアピールするかを決定したら、次に、いつ、どのように関連情報を提供するかを検討します。 

プロダクト主導のオンボーディングの優れた点は、新規ユーザーの獲得に関連するすべての活動をアプリ内で行うことで、ユーザーを取り込み、状況に応じたガイダンスを提供できることです。使用するアプリ内ガイドプラットフォームによって、ウォークスルー、ライトボックスとカルーセル、ツールチップ、動画など、さまざまなアプリ内ガイドの形式を選択できます。どの形式を使用するかを決める際には、お客様の学習嗜好を念頭に置いてください。また、相手に求める特定のアクションの複雑さも考慮してください。カルーセルで提供される一連の動画は、詳細なワークフローを完了するために必要なステップを説明するのに役立つでしょうか?それとも、アプリ内で利用できる段階的な説明書の方が適切でしょうか?

最適なオンボーディングのアプローチは、多くの場合、複数の形式を組み合わせていることを心得てください。たとえば、ライトボックスでアカウントの初期設定をガイドし、ウォークスルーでユーザーがある機能に初めてアクセスしたときに重要なアクションを完了する方法を示し、ツールチップでプロダクトの頻繁に使用する領域の機能をユーザーに思い出させるなどです。このようなマルチフォーマットのアプローチにより、常に興味をそそり、魅力的なものに保つことで、すべてのユーザーが自分に適した方法で学習できるようになります。

最初のオンボードのチュートリアルを設定する方法の詳細については、プレイブック「最初のオンボーディングウォークスルーを構築する方法」をご覧ください。

簡潔にまとめる

新規ユーザーは、何時間もの座学研修を受けたくないのと同様に、アプリ内オンボーディングプログラムに時間がかかりすぎてうんざりするような思いをしたくありません。オンボーディングフローは、ユーザーが自信を持って始められる程度に、できるだけ簡潔にするようにしてください。一般的な経験則として、ウォークスルーは4、5ステップを超えないようにしてください。カルーセルも同様で、何度もスワイプするとユーザーは集中力を失い始めます。

また、アプリ内ガイドに文字を詰め込みすぎてしまう誘惑に負けないようにしてください。簡潔かつ直接的であることを目指しましょう。各ガイドを簡単に理解できるように、明快なコンテンツ構造を使用してください。また、メッセージが大量のテキストに埋もれてしまったら、GIFや動画をガイドに埋め込んで、(言葉で説明するのではなく)ユーザーに操作方法を示すとよいでしょう。

最後に、オンボーディングフローの各ステップには、明確な目的があることを確認してください。たとえば、新規ユーザーの歓迎や、アプリの主要な機能の強調、ユーザーがプロダクトの特定の領域にアクセスする理由の説明などです。アプリ内のリソースハブを活用すれば、ユーザーはいつでもFAQを参照したり、詳しい説明を読んだり、ウォークスルーを再確認したりすることができます。しかし、すべてが最初のオンボーディングにある必要はありません。 

パーソナライズする

オンボーディングは、新規ユーザーへの最初の「ようこそ」メッセージだけで終わるわけではありません。適切なツールを使えば、特定のお客様やユーザーグループに対して、セグメント化された一意のプログラムを作成できます。 

CSMは、このようなオーダーメイドのオンボーディングプログラムの戦略をリードする独自の立場にあります。たとえば、個人の参加者向けとマネージャー向けに個別のオンボーディングガイドを作成し、それぞれのグループのプロダクトの典型的な使用方法に最も関連する主要な機能やワークフローを示すことができます。また、初回のミーティングの際にお客様から寄せられた特定の懸念やニーズに対応するために、個別のアプリ内ガイドを導入することもできます。このようにパーソナライズすることで、お客様一人ひとりに合ったオンボーディング体験を実現し、初日から快適なユーザー体験を提供することができます。 

「ようこそ」プログラム(およびそれ以降)の設定に関するその他のベストプラクティスについては、詳細なプレイブック「オンボーディングの際の『ウェルカム体験』の設計方法」を参照してください。

測定と反復

プロダクト主導のアプローチでオンボーディングを行うことは、プロダクトデータや行動データを使ってプロセスを継続的に反復し、改善することであり、思い込みを捨てることでもあります。 

アナリティクスツールを使って、ターゲット層がオンボーディングモジュールにどのように関わったか(オンボーディングエンゲージメント)、オンボーディング完了後にユーザーがどのようにプロダクトに関わり、行動がどう変化したか(プロダクト使用状況)、オンボーディングプログラムが他のビジネスに不可欠なKPI(ビジネス成果)にどう影響したかを評価しましょう。プロダクト、イネーブルメント、マーケティングの各担当者と協力し、何が上手くいき、何が改善が必要かを理解しましょう。また、アプリ内の投票調査やアンケートを使用して、お客様にフィードバックを求め、これまでの経験についての感想を共有できるようにしましょう。

オンボーディングプログラムの有効性を測定する方法の詳細については、詳細なプレイブック「オンボーディングウォークスルーの効果を測定する方法」を参照してください。