プロダクト主導の組織の中心的な柱の1つは、データドリブン(データ駆動型)であることです。企業の誰もがセールス、マーケティング、カスタマーサクセス、プロダクトなどの分野にかかわらず、プロダクトデータに簡単にアクセスして、自分の仕事で情報を活用し、新しいアイデアを生み出せるのが理想です。そうした考えのもと、各チームにとって最も重要な指標と、情報すべてを最大限に活用するための方法があります。
特にプロダクトチームにとっては、従来は意思決定に際して間接的な情報や直感に依存していましたが、その代わりにデータを活用できます。今日のプロダクトリーダーは、自社のプロダクトで何が起こっているのか、そしてユーザーがプロダクトについて実際に何を考えているのかを理解することで、顧客の生活に真に価値を付加するプロダクト体験を創造する力を備えることができます。
さまざまな指標がありますが、すべてのプロダクトチームが組織のプロダクト主導の戦略を促進するために追跡し、使用すべき8つのKPI(重要業績評価指標)をご紹介します。
1. 定着率
定着率は、プロダクトが意図した価値を提供しているかどうかをプロダクトチームが判断するのに役立ちます。定着率は、プロダクトを操作するユーザーの数(プロダクトの定着率)またはプロダクトの特定の機能を使用するユーザーの数(機能の定着率)によって測定されます。基本的な考えとして、定着率は健全なソフトウェアプロダクト(および企業)の先行指標であり、すべてのプロダクトリーダーが考慮するべきものです。
プロダクトのアクティブユーザーのタイプに応じて月間アクティブユーザー数(MAU)、週間アクティブユーザー数(WAU)、日別アクティブユーザー数(DAU)の3つの方法のいずれかを使用して、時系列でプロダクトの定着率を測定できます。機能の定着率については、最も定着している機能と最も定着していない機能の両方を把握することで、行動傾向を明らかにし、ユーザーが最も価値を感じていると思われるプロダクトの領域を特定することが可能になります。
継続的に定着率を監視することで、特に機能のリリース後に有益な情報がもたらされます。つまり、最初に新機能を導入したユーザーの割合と、時間が経過してからも使用を継続したユーザーの割合を確認できます。
定着率データに対して行動を起こす方法
- 最近リリースされた機能の定着率が低い場合は、アプリ内ガイドを作成してその機能へのユーザーの注意を引くことで誘導したり、使用方法を簡単に説明する完全なチュートリアルを作成したりすることもできます。また、この機能がユーザーベースの特定のセグメントに大きなメリットをもたらしているかどうかを検討し、そのセグメントに絞ってアプリ内でコミュニケーションをとります。
- プロダクトの定着率を全体的に改善するには、新しいユーザーが初めてプロダクトを操作するときに主要な機能について学ぶことができるアプリ内オンボーディング体験を構築します。
- 定着率が低いと感じるプロダクトの機能または領域がある場合は、ユーザーがそこで行き詰まっていてワークフローを完了するためのさらなる支援が必要な可能性があるため、状況に応じたツールチップを作成します。
2. 粘着性
粘着性を測定すれば、「ユーザーはプロダクトに繰り返し戻ってきているか?」という問いに回答できます。粘着性が重要なのは、プロダクトチームは単に新しいユーザーを引きつけるプロダクトを作りたいのではなく、長期にわたってユーザーの関心を引きつけ、継続的にプロダクトを利用してもらいたいと考えているからです。
粘着性は、どれだけのユーザーが定期的にプロダクトに戻ってきているかを測定するもので、毎日使用する月間ユーザー(DAU/MAU)、毎日使用する週間ユーザー(DAU/WAU)、毎週使用する月間ユーザー(WAU/MAU)の3種類の方法で比率を計算できます。プロダクトにとって理想的なエンゲージメントの形に基づいて粘着性の測定方法を選択します。たとえば、プロジェクト管理ツールのように日常的に使用するプラットフォームなのか、医療用患者ポータルのようにあまり頻繁に使用しないプラットフォームなのか、などを検討します。
粘着性を知ることでユーザーがプロダクトに戻ってくる頻度を定量化できるだけでなく、プロダクトマネージャー(PM)は粘着性から得られる情報を活用してユーザーベース全体のエンゲージメントを高めることもできます。
粘着性データに対して行動を起こす方法
- プロダクトに最も頻繁にアクセスする人が使用している機能を特定します。アプリ内のオンボーディングフローで、その機能についてしっかり説明されていますか?担当のチームと協力してオンボーディング体験でこれらの主要な機能を新規ユーザーに紹介しましょう。
- 最も頻度の高いユーザーの行動を調査したあと、アプリ内ガイダンスでウォークスルーを作成して、同様のワークフローを促進し、残りのユーザーベースの粘着性を高めます。
- 粘着性が低いと判断した場合は、マーケティングチームと連携し、外部チャネルやプログラムを活用してユーザーがプロダクトに戻ってくるように勧め、継続利用を促します。
3. 成長率(グロース)
成長率は、新規顧客の追加で増加するか、あるいは既存の顧客アカウントの利用率向上で増加するかにかかわらず、ユーザーの獲得とリテンションの施策に対する正味の効果を測定します。プロダクトチームは、イノベーションや、将来の優れたプロダクトや機能の構築に注力することが多いですが、成長率のような基本的な指標に根差すことも必要です。もしも効果的にユーザーを増やすことができず、既存ユーザーを維持することもできなければ、会社やチームがプロダクト改善のために費やした労力は無意味なものになってしまいます。
成長を測定する簡単な方法の1つは、特定の期間内のユーザーまたはアカウントの増加を追跡することです。もう少し詳細に測定するには、ユーザーの増加、リテンション、チャーンを1つの数値で把握できるQuick Ratio(当座比率)を使用します。特定の期間について、新規ユーザー数と再訪ユーザー数を加算し、それを離脱したユーザー数で割ります。
成長データに対して行動を起こす方法
- 新規ユーザーを獲得するのに苦労している場合は、マーケティング部門とセールス部門と協力して、プロダクトを試す新規ユーザー数を増やす方法を戦略化します。また、無償版のプロダクトがある場合は、ユーザーのワークフローの中の自然なタイミングで、アプリ内メッセージを使用してアップグレードオプションを提供する方法を検討してください。
- 既存ユーザーの解約が多い場合は、マーケティング部門とカスタマーサクセス部門と協力し、プロダクトの使用状況データを調査して解約リスクがあるユーザーを積極的に特定するなど、リテンションを向上させる方法を特定します。その後、アプリ内ガイドを使用して関連するリソースを提供し、ユーザーがより多くの価値をプロダクトに見いだせるようにします。
5. プロダクトエンゲージメントスコア(PES)
プロダクトエンゲージメントスコア(PES)は複合指標で、プロダクトの定着率、粘着性、成長率の平均を表し、プロダクトエンゲージメントの単一の指標として機能します。訪問者レベルまたはアカウントレベルで測定でき、時系列で追跡するとさらに有益です。プロダクトをチームではなく個人で使用している場合は、訪問者レベルで各PESコンポーネントを測定するのがよいでしょう。ただし、新規顧客の獲得に重点を置いている企業では、アカウントレベルでの成長率と全体的なPESを測定する必要があります。
PESは、エンゲージメントを1つの数値に集約し、月次レポートまたは四半期レポートで使用できるため、プロダクトチームにとって特に便利です。また、PMが改善可能な場所を把握するのにも、非常に有用です。プロダクトの定着率、粘着率、成長率の平均を計算するため、どの指標が平均を下げているかを簡単に特定し、さらに掘り下げて時間の経過に伴う傾向を調べ、各数値の背後にある「理由」を明らかにすることができます。
プロダクト主導型組織では、PESはエンゲージメントの共有尺度であり、すべてのチームがプロダクトの成功箇所と摩擦点を理解するために使用できます。プロダクト、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスのすべてがPESを追跡している場合、PESは共通言語として機能し、定着化の改善やオンボーディングの合理化などで連携しやすくなります。
PESデータに対して行動を起こす方法
- PESが増加した場合は、増加の原因となった指標を特定し、プロダクトアナリティクスを使用してプロダクトにおけるユーザーの行動が時間の経過とともにどのように変化したかを把握します。
- PESが減少した場合は、プロダクトの使用状況データを確認してユーザーがワークフローから脱落している場所を調べ、解約の原因となり成長率を低下させる可能性のあるプロダクトの領域を突き止めます。
- 定着率を上げるには、ユーザーの成功にとって最も重要な機能やワークフローを特定し、アプリ内メッセージを作成して、プロダクトのこれらの領域にユーザーを案内します。
5. Time to value(価値実現までの時間)
多くのプロダクトチームは、プロダクトの「アハモーメント(なるほど!と納得する瞬間)」、つまりユーザーが特定のソフトウェアプロダクトを必要とする理由を明確に理解する瞬間を大事にします。Time to Value(価値実現までの時間)は、この体験を定量化したもので、顧客がプロダクトを使い始めてから、そのプロダクトの価値を実感し始めるまでの時間を測定します。PMはアナリティクスツールを使ってTime to Valueを測定し、新規訪問者がプロダクトの主要な機能を操作するのにかかる平均時間、最小時間、最大時間を追跡することも可能です。
Time to Valueは短いほど良いため、プロダクトに対するユーザーの第一印象とプロダクト体験が学習しやすく実用的なものであるようプロダクトリーダーは対策を練る必要があります。ここで重要なのが、合理化されたアプリ内オンボーディング体験です。新規ユーザーは、プロダクトの仕組みとその価値の両方をすばやく理解できる必要があります。
Time to Valueデータに対して行動を起こす方法
- Time to Valueを短縮する方法をユーザーの行動から学習します。顧客が短期間でプロダクトの価値を見いだすことを喜ぶだけでなく、そうしたユーザーのアプリ内行動から学んだことを他のユーザーベースで再現できるようにすることが重要です。プロダクトアナリティクスを使用して、これらのユーザーがプロダクトをどのように操作するのかを調べ、成功しているユーザーが使用している機能がオンボーディングフローで注目されるようになっているかを確認します。
- Time to Valueに長い時間がかかっている原因を把握します。なかなか価値を見いだせないユーザーが、どこで行き詰まり、重要な機能を見逃しているかをアナリティクスを使用して正確に確認します。ユーザーが問題を抱えている箇所を把握することで、プロダクトの機能自体を変更したり、アプリ内ガイドを使用して状況に応じたヘルプを提供したり、オンボーディング体験を調整したりするなどの適切な対応ができます。
6. リテンション
リテンションは、プロダクトを最初にインストールまたは使用を開始したあとも、プロダクトを使い続けているユーザーまたは顧客アカウントの割合を測定するものです。プロダクト全体レベル(アプリのリテンション)と個々の機能レベル(機能のリテンション)で測定できます。どちらもプロダクトチームの監視が重要になります。
リテンションはプロダクトエンゲージメントを理解する方法の1つであるだけでなく、企業の収益にも直接影響します。顧客獲得にかかるコストは初期契約額よりも大きいことが多いため、リテンションが低いと、新規顧客との契約後に損失が出る可能性があります。より多くの企業がプロダクト主導の戦略を採用し、プロダクトチームをビジネスを推進するための戦略的パートナーとして捉えるつれて、リテンションはプロダクトの成功にとってさらに重要な指標になります。
リテンションデータに対して行動を起こす方法
- アプリのリテンションが時間の経過とともに低下する傾向がある場合、プロダクトアナリティクスを使って、低下の原因を特定します。プロダクトの季節性と関係があるのでしょうか?ユーザーは主要なワークフローを完了するのに苦労していますか?
- 機能のリテンションデータを企業規模別、役割別、無料ユーザーと有料ユーザーなどでセグメント化し、異なるサブセットのユーザー間で機能のリテンションを比較します。これにより、行動の違いや、特定のユーザーがプロダクトについて異なるレベルのサポートやガイダンスを必要とするかどうかを把握することができます。
7. 機能リクエストの上位
プロダクトマネージャーのもとには、顧客との非公式な会話、営業チーム、ユーザーインタビュー、アプリ内アンケート、ソーシャルメディア、サポートチケットなど、さまざまなソースから機能リクエストが寄せられます。リクエストの単なる羅列と、ユーザーがプロダクトに求めていることを知るための貴重なインサイトを区別するには、リクエスト全体を理解する能力が必要です。これにより、共通のテーマを見つけ、最も重要なリクエストを特定し、開発作業の優先順位付けを効果的に行うことができます。
真にプロダクト主導型であるためには、プロダクトチームは誰もがアクセスできるすべてのフィードバックをまとめた単一の場所を確立する必要があります。プロダクト組織がこのシステムまたはツールを管理・維持する任務を負うことになりますが、会社全体が顧客情報を一元管理する情報源を持つことで大きなメリットを得られます。
機能リクエストに対して行動を起こす方法
- 機能リクエストデータを企業規模、ARR、業種、NPSの回答、サブスクリプションタイプなどでセグメント化して、特定のタイプのユーザーがプロダクトに対して異なるニーズを持っているかどうかを把握します。
- 複数のリクエストに共通のテーマがある場合、特にターゲットペルソナや高価値のアカウントからのリクエストの場合は、リクエストされた機能をどのようにプロダクトに組み込むかを検討します。エンジニアリングと協力して新機能の範囲を設定し、顧客インタビューを設定して、ユーザーニーズの背景状況を把握します。
8. ネットプロモータースコア(NPS)
ネットプロモータースコア(NPS)は、企業が顧客ロイヤルティを測定する方法です。これは、「このブランドを友人や同僚に勧める可能性はどのくらいありますか?」という1つの質問に、顧客が0から10の数値で回答することで得られます。9または10と答えた顧客は「推奨者」、7または8と答えた顧客は「中立者」、0から6と答えた顧客は「批判者」です。NPSを計算するには、推奨者の割合から批判者の割合を減算します。
マーケティングやカスタマーサクセスなどのチームがNPSデータを支持することが多いですが、顧客のセンチメントはプロダクト体験の直接的な結果であるため、プロダクトチームにとって特に価値のあるデータです。
NPSデータに対して行動を起こす方法
- NPSを長期にわたって追跡するときは、プロダクトのアップデートやメジャーリリースの時期にどのように変動するか(または変動するかどうか)に注目します。
- アカウントレベルと訪問者レベルでNPSを測定することで、平均的なセンチメントと、特定のペルソナがスコアを上下させているかどうかを把握できます。
- プロダクトアナリティクスツールを使用して、プロダクトの使用状況に対してNPSをプロットし、特定の機能またはプロダクト領域が特に高いNPSまたは低いNPSと相関しているかどうかを判断します。そこから、NPSの批判者にアプリ内ガイドを提供して見逃している可能性のある機能に誘導したり、アプリ内アンケートを使用推奨者がプロダクトで最も価値を見いだしている場所を特定したりできます。
学びを深める
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