プロダクト主導の組織はデータ主導の組織です。そうした組織の最大の強みは、データを共有して民主化することで、社内の全チームが行動を起こせるようになることです。プロダクトアナリティクスアプリ内メッセージのエンゲージメント、ユーザージャーニー、フィードバックなどのデータは組織に関係なく有用なデータですが、特定のチームがビジネスの成功とより優れたプロダクト体験を推進するためにどのように役立つか、という視点からこのデータを検証することが重要です。 

ここでは、優れたカスタマーサクセスチームが測定する上位8つのKPI(重要業績評価指標)、それらがCSM(カスタマーサクセスマネージャー)にとって重要である理由、そしてプロダクト主導の強力な組織の構築にどのように貢献しているかをご紹介します。


1. Time to value(価値実現までの時間)

Time to Valueは、顧客がプロダクトを使い始めた瞬間から、プロダクトから価値を引き出すのにかかる時間を測定します。なぜそのプロダクトが必要なのか、どのようなメリットがあるのかをユーザーが理解するときのことを「アハモーメント(なるほど!と納得する瞬間)」と言います。Time to Valueは、プロダクトアナリティクスを使用して測定できます。具体的には、ユーザーがプロダクトの最も重要な機能を利用するのにかかる時間のデータを使用します。これは顧客満足度の有用な指標であり、CSチームにとってリテンション(または解約)を把握する優れた初期指標です。

Time to Valueデータに対して行動を起こす方法

  • Time to value(価値実現までの時間)が長くかかるユーザーの場合:
    もしプロダクトに対するユーザーの第一印象が良いものではなく、主要な機能を使いこなすのに苦労していたら、リピーターになる可能性は低いです。プロダクトの主要な機能を使うのに最も時間がかかるユーザーの行動を調査し、どこで困っているのかを確認します。このような発見をプロダクトチームに伝え、プロダクトのユーザーインターフェース(UI)や機能を改善するよう協力してもらうこともできますし、ツールチップやウォークスルーを導入して、ユーザーが現在使用していないけれども使用すべきプロダクトの領域に誘導することも可能かもしれません。
  • Time to value(価値実現までの時間)が短いユーザーの場合:
    「なるほど!」の瞬間に最も速く到達するユーザーは、良い行動指標の宝庫です。このような顧客のプロダクト全体におけるジャーニーを観察し、彼らのワークフローを他の顧客でどのように再現できるかを考えましょう。アプリ内オンボーディングプログラムを作成し、最も成功しているユーザーが取っているステップで、苦戦しているユーザーをガイドします。

2. 定着化

カスタマーサクセスの最も重要な機能は、顧客が投資したプロダクトから必要なものを引き出し、それを使って目標を達成することを支援することです。顧客やユーザーがプロダクトから価値を得ているかどうかを評価する明確な方法は、定着率、つまりプロダクトとのインタラクションのあるユーザーやアカウントの数(プロダクトの定着化)やインタラクションのあるプロダクト内の特定の機能(機能の定着化)を追跡することです。

プロダクトの定着率は、月間のアクティブユーザー(MAU)、週間のアクティブユーザー(WAU)、または日別のアクティブユーザー(DAU)の数、または一定期間の新規ユーザー登録数に対する相対的な割合で表すことができます。機能の定着率では、プロダクト内の特定の機能を追跡し、誰が、いつ、その機能を利用しているかを把握できます。さらに、ユーザーとアカウントの両レベルで定着率を詳細に監視することで、CSMは、どの顧客がプロダクトから価値を見出しているか、どの顧客が苦戦しているか、どの顧客が解約リスクがあるかを理解し、適切な介入を行うことができます。また、定着率は、ブランド全体の満足度や顧客の更新意向の早期指標としても効果的です。

定着率データに対して行動を起こす方法

  • 機能の定着率が低いアカウントの場合:
    主要な機能をまだ導入していないユーザーを対象に、動画やGIFで使い方を説明するアプリ内ガイドを提供します。これは、それらのユーザーが本来の目的のためにプロダクトを使用するよう促すのに役立ちます。
  • プロダクトの定着化に時間がかかっている、または定着化が低下しているアカウントの場合:
    定着率が低下傾向にある顧客には積極的にアプローチして課題を把握し、アプリ内ガイドで新機能やリリース間近の機能を知らせたり、プロダクトによって目標の達成にどう貢献できるかを再確認するためのミーティングを設定したりします。
  • プロダクトと機能の定着率が優れているユーザーの場合:
    お祝いの言葉を含めたアプリ内ガイドをリリースして彼らの進歩を祝い、プロダクトの最も気に入っている点についてのレビューやフィードバックを依頼します。

3. 粘着性

粘着性は、どれだけのユーザーが定期的にプロダクトに戻ってきているかを測定するもので、毎日使う月間ユーザー数(DAU/MAU)、毎日使う週間ユーザー数(DAU/WAU)、毎週使う月間ユーザー数(WAU/MAU)の3種類の方法で追跡できます。比率には、プロダクトにとって理想的なエンゲージメントの形を反映する必要があります。たとえば、医師向けの電子記録管理プラットフォームのようにユーザーが日常的に利用する必要があるプラットフォームなのか、個人向けの納税計画・申告アプリのように利用頻度が低くても季節的に利用する必要があるプラットフォームなのか、などを検討します。 

粘着性は、定着率と同様に、どれだけのユーザーがプロダクトに価値を見出し、期待するワークフローに組み込んでいるかを示すものであり、CSチームにとって貴重なものです。CSMは、粘着性を手がかりとして、「パワーユーザー」と同じ行動を顧客全員が取れるよう監視し、奨励することができます。

粘着性データに対して行動を起こす方法

  • 粘着性の低いアカウントの場合:
    これは、ユーザーが最も価値のある頻度・方法でプロダクトを使用していないため、さらなるイネーブルメント(実践支援)やガイダンスが必要であるという信号である可能性があります。このようなユーザーを対象に、プロダクトの再利用を促すメールを配信し、再利用時には主要機能を案内するオンボーディングスタイルのウォークスルーを提供します。
  • 粘着性の高いアカウントの場合:
    プロダクトを高い頻度で活用しているユーザーや顧客の行動を調査し、他のユーザーが同じ成功を収められるようなリソース(トレーニングセッションやアプリ内のFAQなど)を構築します。

4. 成長(グロース)

成長率は、ユーザーの獲得とリテンション施策に対する正味の効果を測定します。これは、特定の期間にプロダクトの使用開始、維持、および離脱をしたユーザーの数を捕捉することにより、新しいアカウントの追加と既存のアカウントによる使用量の増加の両方を示します。 

一般的に、CSチームは組織内の顧客の維持と拡大に対して責任があります。成長は、顧客とユーザーがプロダクトの価値と有効性をどのように認識しているかについて、CSMに明確な見通しを与える「ノーススター(北極星)」メトリックです。また、他のプロダクトアナリティクスデータ、機能リリース、定性的なフィードバックとともに評価すると、顧客やユーザーが本当に何を望んでいるか、何を必要としているかを理解するための貴重な出発点になります。CSMは、この情報をプロダクトチームに持ち帰って、ロードマップを作成し、プロダクトの将来の方向性を導くことができます。

成長データに対して行動を起こす方法

  • ある主要機能の発表やリリース後にユーザー数が拡大した場合:
    該当の機能と関連する可能性のある他の機能は強く望まれているため、広く定着する可能性が高いと推測できます。これはプロダクトチームにとって貴重な情報であり、CSMにとっても、解約リスクのある顧客や定着率の低い顧客との会話で、新機能を試してもらうための貴重な実例となるものです。
  • リリース後数の拡大が停滞している場合:
    これは、新機能に対する認識の欠如を示している可能性があります。マーケティングチームと協力して、まだその機能を利用していないユーザーに対して、自らその機能を探求するよう促すアプリ内ガイドを展開したり、将来的にどのような機能が欲しいかを聞いたりしましょう。

5. プロダクトエンゲージメントスコア(PES)

プロダクトエンゲージメントスコア(PES)は複合指標で、プロダクトの平均定着率、粘着性、成長率を表しています。PESは、ユーザーや顧客がプロダクトにどのように関わっているかを測定するための単一の包括的な指標として機能することを目的としており、訪問者またはアカウントレベルでの成功を測定するために使用できます。もし、プロダクトがチームではなく個人によってのみ使用されるのであれば、PESの各要素は訪問者レベルでのみ測定することになるでしょう。しかし、新規顧客の獲得に重点を置いている企業では、アカウントレベルでの成長率(および全体のPES)を測定することが最適です。 

CSチームにとって、PESを長期的に追跡し、会社のニュースやプロダクトの変更点などと比較することは、顧客満足度と機能の有効性を比較する良い方法です。また、 ネットプロモータースコア(NPS)や顧客満足度(CSAT)など、より一般的に使用されている指標と同様に、PESもCSMが長期にわたってアカウント全体の健全性を測定・監視するためのツールの1つです。

PESデータに対して行動を起こす方法

  • PESを長期にわたって監視し、定期的に(たとえば、毎月の顧客との定例会議時)報告して、傾向と改善すべき領域を特定します。3つの指標をそれぞれ掘り下げて、前月比でPESの総合スコアにどのような影響があったのか、またその理由は何なのかを探ります。
  • 四半期ごとのビジネスレビュー(QBR)やその他のエグゼクティブミーティングでPESについて報告し、プロダクトのパフォーマンスを一目で把握できるようにします。

6. 定着率と売上維持率(NRR)

リテンションは、プロダクトを最初にインストールしたあとや使用を開始したあとも引き続きプロダクトを使用しているユーザー(または顧客アカウント)の割合を、アプリレベルと機能レベルの両方で測定します。この指標は、一定期間内に何人のユーザーや顧客がプロダクトや機能を使い続けているかを示すもので、解約リスクの良い指標となります。一般的に、新規顧客獲得よりも既存顧客維持の方が経営的に低コストであるため、特にCSチームにとっては重要な指標となります。つまり、顧客リテンションが低いと、新規顧客を獲得する際に損失を被ることになります。そのため、優れたプロダクト体験を提供することで確実でな顧客維持に努め、プロダクト体験の低下を招く要因を理解し、それを軽減することが重要です。

売上維持率(NRR)も関連性があります。これは、既存の顧客から得られる一定期間における売上の維持率のことです。NRRは、顧客リテンションと拡大機会の主要なオーナーとして、CSチームにとって特に重要です。なぜなら、NRRは、プロダクトが顧客のニーズを継続的に満たし、解約を最小限に抑えながらその範囲を拡大する能力を示すのに役立つからです。

リテンションとNRRデータに対して行動を起こす方法

  • リテンション:
    一般に、ユーザーが日常的に操作する機能が少なければ少ないほど、プロダクトから価値を得る可能性は低くなります。機能のリテンションが着実に低下していることは、解約の初期の指標となり得ます。リテンションデータをセグメント化し(例:役割別、企業規模別、無料ユーザーと有料ユーザー)、異なるサブセットのユーザー間で機能のリテンションを比較し、その行動の違いを判断することができます。
  • NRR:
    NRRの低下や上昇に最も貢献したアカウントを調べます。そのユーザーの行動を掘り下げ、何がうまくいったのか(NRRの増加に寄与)、どこで苦労していたのか(NRRの低下に起因)を特定します。これにより、拡大した顧客のポジティブなワークフローやオンボーディングプロセスを再現したり、解約した顧客のネガティブな体験の原因となったプロダクトの問題やイネーブルメントのギャップ、その他の要因に対処することができます。

7. ネットプロモータースコア(NPS)

ネットプロモータースコア(NPS)は、企業が顧客ロイヤルティを測る最も一般的な方法のひとつです。NPSは、「このブランドを友人や同僚に勧める可能性はどのくらいあるか?」という1つの質問に、顧客が0~10の数値で回答することで得られます。9または10と答えた顧客は「プロモーター(推奨者)」、7または8と答えた顧客は「中立者」、0から6と答えた顧客は「批判者」です。 

NPSは非常に浸透しているため、同業他社に対する組織のベンチマークとして有効な手段です。また、一定の時間単位で収集し、追跡しやすい指標でもあります。CSチームは、日々顧客と接しており、それぞれのスコアの背後にある定性的な状況を把握することができるユニークな立場にあるため、顧客のNPSスコアを調査し、対応するのに最適な能力を備えています。NPSは、全体的な拡大や成功のシグナルとしても有効です。顧客のブランド支持率は、顧客の幸福度、ひいてはビジネスの成長を示す代用指標となります。

NPSデータに対して行動を起こす方法

  • アカウントレベルと個人ユーザーレベルでNPSを測定します。アカウントレベルのスコアは、各顧客の平均的なセンチメントを理解するのに役立ちます。一方、ユーザースコアは、スコアを上下させる主要なペルソナがいるかどうかを明らかにするのに役立ちます(そして、その行動をさらに調査し、必要に応じて再現したり介入したりすることができます)。
  • 回答者には、常に数値スコアのほかにコメントも記入してもらいます。このような定性的な情報は、貴重な背景知識を与えてくれるほか、必要に応じて顧客をフォローする際の自然なきっかけになります。

8. フィードバックと機能リクエスト

顧客フィードバックは、プロダクトまたはサービスを使用した経験について顧客から提供される情報です。その目的は、顧客の満足度を明らかにし、プロダクトチーム、カスタマーサクセスチーム、マーケティングチームが改善できる可能性がある部分を理解することです。機能リクエストは顧客からのフィードバックの一部で、顧客やユーザーが将来プロダクトに求める機能や最適化に関するものです。CSチームは、顧客からのフィードバックや機能リクエストを直接聞くことができる最適な立場にあり、プロダクトやエンジニアリングなど組織内の他のチームがこれらのインサイトを1か所に集め、トリアージしてロードマップを検討できるよう支援します。

プロダクトチームがすべての機能リクエストに対応することは不可能(かつ好ましくない)ので、顧客やユーザーから最もリクエストの多い機能を把握することは非常に有効です。この情報はCSMにもメリットがあります。大口の顧客の解約を防ぐには、アカウントごとに上位のリクエストを分析して、投資に値する改善点があるかどうかを確認することが重要です。また、CSMは顧客とのミーティングの際に、これらの要望を積極的に持ち込んで、より詳しい状況を把握したり、特定の機能が将来のリリースで検討されている(あるいはされていない)理由を説明したりすることができます。

フィードバックと機能リクエストデータに対して行動を起こす方法

  • フィードバック:
    プロダクトアナリティクスを使用して、顧客がプロダクトをどのように使用しているかをフィードバックと相関させ、ジャーニーの全体像を把握します。たとえば、あるワークフローが複雑に感じられるという顧客からのフィードバックがあった場合、顧客のアナリティクスデータから、ワークフローを完了するまでに通常たどる経路や、その過程で利用された機能を確認することができます。これは、プロダクトの機能やUIの変更が必要かどうか、または問題が実際にアプリ内ガイドで解決できるイネーブルメントのギャップに起因しているかどうかを明らかにするのに役立ちます。
  • 機能リクエスト:
    顧客との各QBRの前に、アカウントレベルで行われたリクエストを確認します。そうすることで、顧客の質問に答える準備ができます。つまり、顧客が解決したいと思っている課題について事前に状況を把握できます。結果的に顧客との信頼を築くことができ、顧客は自分の意見を聞いてもらっており、大切にされていると感じるようになります。

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