業界に関係なく、顧客のロイヤルティを獲得するには、良い顧客体験を提供することが最善の手段であることは周知の事実です。プロダクト主導のチームは、プロダクトがいかに価値提供できるかが顧客体験を大きく左右することを知っています。しかしそれだけでなく、プロダクトをとおしてロイヤルティを向上させるような体験やサービスを提供し、自然と顧客がその企業の支持者になってくれるようにすることも可能であることも知っています。 

カスタマーサクセス(CS)チームにとってロイヤルティを醸成することは常に最重要課題です。そしてカスタマーサクセスマネージャー(CSM)は、顧客のカスタマーライフサイクルをとおしてロイヤルティ向上に貢献できる立場にあります。


顧客ロイヤルティとは何か

顧客ロイヤルティは、優れた顧客体験の副産物であり、長期的な顧客リテンションの結果です。これは、ブランドに対する顧客の好意と前向きな感情を含むものであり、顧客が同僚や仲間(つまり潜在的な将来の顧客)と会社についてどのように話すかを示す信頼できる指標です。要するに、ロイヤルティとは、組織に対する顧客の親近感または忠誠心です。

忠実な顧客とは、一般的に、最高のブランド支持者です。この言葉が示すように、忠実な顧客は企業やプロダクトを支持しています。そして自発的に、しかも有機的に、促されなくてもお客様の声、レビュー、ソーシャルメディア、口コミを通じて支持してくれます。


プロダクト主導のアプローチがロイヤルティとアドボカシーを推進できる理由

従来の組織のCSMは、リソースを多く必要とする1対1のやり取りによって、顧客ロイヤルティに真の変化を起こそうと取り組んできました。対面のオンボーディングと実践支援、電話や電子メールによる確認、カスタマーサポートの問い合わせへの回答などの活動は、CSMが戦略的で実りある顧客エンゲージメントに費やせるはずの貴重な時間を浪費するだけです。 

プロダクト主導のアプローチを使用すれば、CSMがこのような反復的なタスクから解放され、価値ある活動に集中し、企業の収益に影響を与える可能性が高い顧客との関係を育むことに、時間を費やすことができます。このような戦略により、優れた顧客体験を実現するパーソナライズや、喜びの瞬間を犠牲にすることなく、1対多のやり取りを通じて取り組みを拡大することもできます。

顧客のロイヤルティの向上にプロダクトを活用すると、CSMはデータを基に顧客関係を管理しよう、という意欲が湧きます。定量的データ定性的データ使って、CSMは最も満足していてロイヤルティの高い顧客を特定できます。そしてその顧客の行動を他の顧客にもとってもらうための施策を検討することができます。また、理想的な顧客がどういうものかを理解できるので、その知識をプロダクトの拡販に活用することもできます。

データはCSチームとプロダクトチームに「共通言語」を提供します。プロダクトのパフォーマンスや顧客の行動に関するデータという、共有できる「一つの真実」があることで、両チームはより一丸となって協働できます。たとえば、CSMがいくつかの顧客の使用率が低下していたり、彼らが同じ問題で困っていることに気づいたとします。この懸念点をすぐにプロダクトチームと共有することで、迅速な原因究明と解決につながります。このスピード感が、顧客の満足度向上につながり、ひいてはロイヤルティが向上する可能性を高めます。 


顧客ロイヤルティと支持につながるプロダクト主導の戦術

これまで多くの工数を必要としていた顧客とのエンゲージメント活動をプロダクト内に組み込むことは、CSチームにとって時間と労力の効率化になるだけでなく、顧客にとってもプロダクト内で情報が提供されるため、より早い理解につながります。ここで、CSチームが活用できる、顧客ロイヤルティの向上と良いプロダクト体験の提供につながるプロダクト主導の施策をいくつかご紹介します。

プロダクトを使って良いオンボーディング体験を提供する

新しく顧客関係が始まったばかりのときに、長期的なロイヤルティや顧客支援について考えるのは時期尚早だと感じるかもしれませんが、現実には、顧客はプロダクトを知り、使い始めた瞬間から、自分の体験を判断し、組織に対する認識を形成し始めるのです。なので、初日からその瞬間を逃さないことが重要です。オンボーディングは、カスタマージャーニーにおける重要なステップであり、多くの場合、顧客がその後の体験に期待できるステージを設定するものです。 

CSチームは、プロダクトおよび実践支援部門と連携して、顧客がプロダクトの価値をできるだけ早く実感できるようにするアプリ内オンボーディングプログラムを構築する必要があります。CSチームがオンボーディングプロセスに情報を提供する方法について紹介します。

  • 新しいユーザーが完了しようとしている仕事や達成したい成果に基づいて最初の学習トラックを選択できるようにすることで、「自分の冒険を選ぶ」オンボーディング体験を提供します。
  • アプリ内ガイドを使って、顧客に担当CSMが誰かを紹介します。その顧客向けのメッセージを入れて、何かあったときにどこに連絡すれば良いかを知らせます。
  • CSMが知っている「理想的な顧客が取る行動」についての知識を活用して、オンボーディングフローを改善します。過去に顧客が理解するのに苦労した機能はありませんか?今後の新規ユーザーが同じ体験をしないようにするには、その機能についてどのような情報や実践支援を提供するのがよいでしょうか。

アプリ内サポートでユーザーが自分で問題解決できるよう支援する

CSとアカウントチームがサポートしているという安心感を顧客に与えるだけで、信頼とロイヤルティを構築するのに大いに役立ちます。また、プロダクト主導のCS組織では、サポートを提供することは、必ずしも24時間365日顧客に対応することではありません。よく要求されるドキュメントとガイダンスをプロダクト内に用意し、簡単にアクセスできるようにすることで、顧客が必要なときにセルフサービスで利用できるようにしているのです。 

プロダクト主導のサポートはプロダクトを活用して、顧客が担当のアカウントマネージャーにすぐに連絡できる方法や、フィードバックや各種依頼などを送信する方法を提供します。これは、プロダクトとサポート用のツールをインテグレーションさせたり、プロダクト内にフィードバックを送信できる場所を設けるたりすることで実現できます。顧客に自力で情報を得る方法や意見を述べる方法、さらには助けを求める方法を提供することで、以下のようなメリットがあります。

  • 質問の質が向上します
  • CSMが対応する、繰り返し発生する問い合わせの数が減ります(多くの場合、人間が介入せずに解決できます)。
  • 顧客がサポートを待つ時間が短縮します(顧客満足度に大きく貢献します)。

顧客に情報を提供し、循環させる

最高のCSMは、顧客を暗闇に放置したりしません。関係における透明性と誠実さを重視し、顧客が目にする可能性が最も高い場所で、関連する更新やプロダクトニュースを伝えます。アプリ内 ガイドを使用して、アカウントレベルで重要なニュースを伝えたり、個人レベルで実行する必要のあるアクションにフラグを立てたりすることもできます。また、アプリ内ガイドを使用して、フィードバックやリクエストを送信した顧客との循環システムを構築します。CSMは、顧客の声が届いたことを顧客に知らせ、投稿を共有してくれたことに感謝を伝えることで、信用とロイヤルティを継続的に構築できます。

プロダクト主導のCSチームもデータを使用して、顧客とのより生産的で透明性の高い対話を行います。プロダクトアナリティクスから得られた調査結果を使って、顧客の現在のパフォーマンスと将来的に改善が必要な場所に基づき、顧客のサクセスプランを伝えます。この情報は、四半期ごとのビジネスレビュー(QBR)などの重要なタッチポイントで顧客と有意義な議論を行う際にも役立ちます。CSMは、注目すべきユーザーの行動や定着化の傾向を示し、改善に向けた戦術を提案したり、顧客体験を改善する可能性のある他の機能を明確にしたりすることができます。

ネットプロモータースコア(NPS)で確認する

ネットプロモータースコア(NPS)が、顧客の健全性と満足度を測る業界標準であるのには理由があります。それは、顧客から聞き出したいことを一つの質問に集約し、長期的に簡単に追跡できるからです。また、CSチームにとっては解約やロイヤルティをモニタリングする良い指標です。「推奨者」であるユーザーは、支持者であり長期的な顧客になる可能性が高く、また「批判者」は機会があればすぐにでも解約してしまう可能性があるということを意味します。

この場合、プロダクトアナリティクス ツールを使ってNPSの回答と実際のユーザーの行動データを比べてみるのが理想です。CSMにとってこのようなインサイトは、チャンピオン(他のユーザーにも真似してほしい理想的な行動を取る顧客)または解約リスクのある顧客(使用に苦戦していてサポートが必要そうな顧客)を特定できる、大変貴重な情報となります。以下はその例です。

  • 使用率の高い推奨者は、強力な支持者です。お客様の声やレビューを求めるのに最適な候補となります(詳細は後述します)。
  • 使用率の低い推奨者 は、プロダクトに価値を見出せてはいるものの、最大限に活用しきれていない可能性があります。CMSは追加のサービスや実践支援をとおして、プロダクトをフル活用できるようサポートします。
  • 使用頻度の高い批判者は、プロダクトの機能に対して明確なニーズを持っているが、プロダクトの使用体験に大きな不満がある顧客です。このコホートを掘り下げて、ユーザーが意思決定者であるかどうかを特定し、スコアにコンテキストが追加されるフィードバックを共有したかどうかを確認し、時間の経過とともに使用状況がどのように変化したかを確認することは、CSMが関係を再確認し修復する上で貴重な情報になります。
  • 使用頻度の低い批判者は、ブランドに親しみを感じていない顧客であり、解約する可能性があります。このような顧客は解約リスクがあると見なされるため、CSMの介入が必要です。

活用事例やレビューの提供を依頼する

お客様の声やユーザーの声は、売り手が自由に使える最も強力なツールです。顧客と頻繁にコミュニケーションを取り交流しているCSMは、顧客に依頼する役割に適しています。プロダクトアナリティクスを使って、最も関与し、支持を得ている顧客やユーザーを特定し、ターゲットを絞って、お客様の声を書いたり、レビューを残したり、アンケートに回答したりしてもらうためのアプリ内ガイドを作成します(プロダクト内で回答を収集できたらボーナスポイントを付与します)。

重要:お客様の声やレビューをリクエストするタイミングを必ず検討してください。ユーザーの使用パターンと、ユーザーがプロダクト内をどのように移動しているかを考えます。一般に、ユーザーがプロダクトを使い始めたときやタスクの最中に大量のリクエストを送信するのは得策ではありません。また、プロダクトで否定的な体験をしたばかりのときにガイドを表示するのも賢明ではありません(例:サービスの低下、セキュリティの問題、バグなど)。あるいは、キューに未解決のサポートチケットが多数ある場合にガイドを表示しても、フラストレーションを引き起こすだけです。 

ベストプラクティスは、喜びの瞬間があった直後にレビューや事例紹介の依頼をすることです。たとえば、ユーザーがワークフローを完了できた時、ユーザーになって○か月記念の時、またはプロダクトを使いこなしていることがわかるような指標を達成した時などです。

喜びの瞬間を作る

顧客は、プロダクトや企業に対する印象や感情を、契約の更新時にだけ考えるわけではありません。購入する前を含む、彼らのカスタマージャーニー全体を通してプロダクトや企業への感情は醸成されていきます。顧客にパーソナライズされた体験を提供することが重要なのはこのためです。そしてそれは、プロダクト主導のアプローチを使うことで効率的に実現できます。ちょっとした気遣いが顧客のロイヤルティを高めること、そして良いプロダクト体験をすることにつながるのです。

顧客のライフサイクル全体を通じてプロダクトに喜びの瞬間を注入するためのアイデアを次に示します。

  • トリガーにより表示されるアプリ内ガイドを使って、あるワークフローを初めて完了したユーザーをお祝いします
  • GIFのような動的なコンテンツをアプリ内ガイドに盛り込み、さらに魅力的なものにします
  • 事前に録画されたCSMのビデオを顧客のパーソナライズされたオンボーディングガイドに埋め込み、サポートチームを紹介し、顧客をプロダクトに迎えます。
  • スクリーンのロード画面やログイン画面などの「あいだの画面」に気を配ります。面白いメッセージや画像を含めるなど工夫を凝らしてみましょう。たとえばログインする時間によってメッセージを変えてみます。
  • ユーザーがベータプログラムに登録したり、プロダクト内で直接プレビューを表示したりできるようにすることで、新機能に対するワクワク感を生み出します
  • カスタマイズしたアプリ内ガイドで、顧客の各種マイルストーンや記念をお祝いします。例えば誕生日や祝日などです。